■ プロフィール

Author: ねこ 
猫愛妻家。
持ち物全てを猫(黒猫だと尚いい)で染めようと密かに目論んでいる。

小咄は明るいモノよりも暗いモノを好みます。
一人称で意味不明な文をつらつら書く傾向が多々みられます。
でも心の奥深くではオールジャンルに対応できる人間になりたいと密かに思っております。

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酷く歪んで見えて、未来なんてずっと偽者だとおもっていたのに。



本日のお題

    独白5題+台詞5題

「酷く歪んで見えて、未来なんてずっと偽者だとおもっていたのに」


暖かい光と独特な甘い香りに包まれて、私は目を覚ました。
目の前には真っ白な空間が広がっていて、体は大きくふわりとした布団たちに包まれていた。

体を起こして髪を掻き上げると、先ほどのことが頭の中で映像として浮かんできて気分を悪くさせた。
それを取り払うように布団から抜け出して、明かりを遮っている部屋のカーテンを端へと寄せるように持っていく。
少し昇りすぎてしまった太陽の強い日差しが、部屋の中を明るくするのと共に体の中へと染み込んでくる。
部屋の空気も入れ替えるように窓を開けてから一呼吸しドアをけると、ダイニングと呼ばれる場所にスーツに身を包んだ背の高い女性が立っていた。


「おはよう、マスター」

「おはようございます、お嬢様」


簡単な挨拶を交わすと、マスターはダイニングのカウンターに飲み物を置いて、そこに座るように催した。
繋がれた糸に手繰り寄せられるかのように、私は示された場所に腰を下ろしてカウンターの先を覗き見る。
キッチンにはフライパンや鍋などが、その横には食材が盛られた皿が置かれてあり、朝から丁寧な食事が用意されていることを表していた。
手際がよく慣れていることを見せつけるように、着々と朝食の準備が成されていく。

私は出されたコップを口元に持っていきながら、食い入るようにその姿をじっと見つめていた。
料理の経験なんてものが一切ない私には、慣れた手つきで進める様子がとてつもなく羨ましくて仕方がなかった。
家の一室に隔離されたように入れられて、ただ何をすることもなく過ごしていた以前の私には、料理だけでなく、この世界の成り立ち方すらも知らなかったのだ。
その頃の私は、何もせずに生活しているのが当たり前だと思っていて、それが正しいのだと思っていた。
その家の飾り物として扱われていたことになんて、これっぽっちも気付きはしなかったのだ。
今考えると、ずっと住み続けた家の人間もどこか神経がおかしかったのかもしれないが、それを平然と受け入れていた私もどうかしていたのだ。

そう考えて、着続けた服を身に纏って意を決して外に飛び出してはみたが、辺りの風景は自分にとって眩しすぎてどうにもできなかった。
街の光や、行き交う人々の輝いている様子を見て、私はこの世界に交わることを許されてはいないのだと悟った。
他の人には用意されている先の未来が、私には存在しないのだと。
あったとしても、それは全て作り出されたもので、結局は私自身の存在さえもあるのか分からない薄っぺらいものではないだろうか、と。


「お嬢様、どうかなされましたか?」

「え?あぁ……なんでもないわ。大丈夫よ」


マスターに自分の全てを見透かされているように感じ、私は口元に付けていたコップを斜めにして体に流し込んだ。
全てを流し込んでコップの中を覗き込むと、底に少し溜まった粉のようなものが私の中のなにかを突き刺すように痛んだ。
そこから無意識に作り出した私の表情をチラリと覗き込んだマスターは変わらず優しい微笑みを浮かべながら私の前にいくつかの皿を並べた。
何も言葉を口にしないマスターに習うように、私もまた言葉を紡ぎだすことなく、出された朝食に手を付けたのだった。