■ プロフィール

Author: ねこ 
猫愛妻家。
持ち物全てを猫(黒猫だと尚いい)で染めようと密かに目論んでいる。

小咄は明るいモノよりも暗いモノを好みます。
一人称で意味不明な文をつらつら書く傾向が多々みられます。
でも心の奥深くではオールジャンルに対応できる人間になりたいと密かに思っております。

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信じてもいいの?愛してもいいの?あなたの傍に永遠に居られる?



本日のお題

    独白5題+台詞5題

「信じてもいいの?愛してもいいの?あなたの傍に永遠に居られる?」


お互いに朝食を済ませたあと、私はカウンターに腰を下ろしたままじっと部屋の風景を見つめていた。
それ程長い時間とは言えないが、初めて自ら外の世界へと抜け出して生活し始めたこの場所に愛着を感じていたのだ。
今まで感じたことのない感情が体の中へと入り込んで積み重ねられていくようで、とても愛おしく思えていた。
それでも、これが本当にここに存在するものなのかと言われてしまえば、肯定できる要素など私は持ち合わせていなかった。
今ある日常というものに完全に浸かってしまえば、全てを否定されてしまった時に私が信じていた現実が無残にも砕け散ってしまうのだ。

考え出したら収拾がつかなくなってしまうことくらいは分かっているが、初めて信じてもいいと思えたこの現実がなくなってしまったら、きっと私には何も残りはしないのだろう。
それを思うと、この穏やかな日常を完璧に信じ込んでしまうのはいけないことなのだと、心のどこかで考えている自分がいる。
私の感情がマスターに伝わっているのかいないのかは分からないが、いつでも彼女は私に対して優しい微笑みだけを向けてくる。
それがまた私の中で不安要素を作りあげて少しずつ積み上げていく。
彼女に何か答えを求めようとしている私もどうかとは思うが、そうしなければいとも簡単に今が崩れてしまうような、そんな気がして仕方がなかった。

私は小さく溜め息を吐き出して、部屋の中をじっくりと見渡した。
いつもと何も変わらない部屋に、秒刻みに時間を進んでいく時計の指針が音を刻んでいくようにゆるやかに流れていく。


「お嬢様、何かお飲み物でもお入れしましょうか?」


不意に後ろから降ってきた声にびくりと肩を震わせそうになったが、それを押さえ込んで声がした方向を振り返る。
相変わらず表情を崩さないマスターの考えていることなんてものは私には分からないが、考え込んでいる私を気遣ってくれているのだろうと感じた。
マスターの微笑みに見合うものを返そうと笑顔をつくり首を縦に振ると、承知しました。とだけ言ってキッチンへと姿を消してしまった。

その瞬間、とてつもない虚無感を感じたのはきっと気のせいではなかった。
私は信じるか信じまいかの狭間で揺れているマスターに依存してしまっているということを理解している、頭とは違う箇所……体を通して表しているのだ。
そのことに気付いていなかった訳ではないが、こうも素直に自分の体が動いてしまうと、どうも情けなく思ってしまう。
自分が思っている以上に、私はこの穏やかで暖かい生活に依存しきってしまっているのだということを嫌でも痛感してしまった。
だから、全てを否定されてしまうことにとてつもない恐れを感じているということも。

マスターによって目の前に出されたコップに気付いて、私ははっとしながら顔を上げた。
切れ長の薄く開いた目と視線が合い、やはり私のことをすべて見透かしているのではないかと動揺を隠せないままコップを受け取った。
用事を済ませると、マスターは私から視線を逸らしてそのまま愛用のソファに腰を下ろす。
言葉として何かを伝えてくるわけではなかったが、渡された陶器からじんわりと伝わってくる温かさが彼女の優しさの表れなのだと改めて感じた。
その温かさに心を侵食されていきそうになり、寸前で陶器をカウンターの上に置いた。

支配されてしまってはいけないのだ。
そう思ってしまう自身がとても愚かだと思ってしまうのだが、抜け出せない程に溺れてしまってはいけないのだ。


「マスター、私が貴方の傍にいることは許されることなのかしら」

「お嬢様は私の傍にいたいと思ってくれないのですか?」


普段なら私の小さな呟きに対してあまり言葉を返してこないマスターが珍しく返答したことに、私は次に紡ぎだす言葉を失ってしまった。
私からかもし出される空気でそれを感じ取ったのか、マスターはソファを回してコチラを向くとまたお決まりの笑顔を作った。


「貴方が傍にいて欲しいと願うなら、私はいつまでも貴方の傍にいますよ」


マスターから放たれた言葉に、私の口からは簡単な言葉しか出てこなかった。
優しい答えに続けて言葉を吐き出せてしまう程、私の芯はしっかりと形成されていなかったのだ。
気を緩めてしまえば溢れ出してしまうであろう嗚咽を隠し通すように、私はカウンターに置いたコップを口元に力強く押し付けた。