■ プロフィール

Author: ねこ 
猫愛妻家。
持ち物全てを猫(黒猫だと尚いい)で染めようと密かに目論んでいる。

小咄は明るいモノよりも暗いモノを好みます。
一人称で意味不明な文をつらつら書く傾向が多々みられます。
でも心の奥深くではオールジャンルに対応できる人間になりたいと密かに思っております。

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落ちていくような錯覚に囚われて、此処が陸だと忘れてた。



本日のお題

    独白5題+台詞5題

「落ちていくような錯覚に囚われて、此処が陸だと忘れてた」


ふと気がつくと、私は真っ暗な闇の中にひとり佇んでいた。
ここは自分の夢の中なのだという奇妙な確信を持っていたが、心の奥深くではコチラこそが現実ではないかと言う思いを募らせていた。
立っている場所が本当に真っ暗ではないことは、自分の体を確認する事で理解することができた。
が、深い闇にはまってしまっているように感じるのは、辺りが全て黒で覆われていて物理的なものを確認することができなかったから。

その所為か、全身が冷たいもので包まれて凍ってしまったかのようにピクリとも動きはしない。
思い込みが自身をそうさせているのだろうけど、手を伸ばした範囲に自分を支えるものがひとつもないというのはとてつもない恐怖を煽った。
このまま深い闇の中に落ちて、二度と上がってくることができないのではないだろうかとまで考えてしまう程に。

強張っている体を伝うように、息を飲み込む小さな音が全身を突き抜けていく。
その瞬間、本当にここには自分だけしかいないのだということをはっきりと知らされた。
小さな音を消し去ってくれる物音すらも、この世界の中には存在していないのだ。

ヒュっと息を飲み込むと、体の奥深くに閉じ込めていた感覚が甦ってくるのが分かった。
全身に染み出してくるひんやりとした滴が、呼び起こそうとしているものを拒んでいることを知らせてくる。
全てを思い出してしまえば、この闇から一生抜け出せなくなってしまうのではないかと考えると、喉の奥から熱いものが込み上げてくる。
それを抑えるように息を吸い込もうとするが、誰かが口を塞いでいるように行為を阻止される。

「……ま、すた…っ」

救いを求めるように彼女のことを口にしてみたものの、ここは全てを遮られた闇の中。
いつも微笑みを見せて手を差し伸べてくれる彼女の姿はどこにもない。
早くなった鼓動を押さえつけるように胸に手を当てて、無意味な救いの言葉を口に出しては絶望の淵に落とされていく。

閉じ込めたものが甦ろうとしていることさえも酷く恐ろしいのに、答えをくれる存在すらもここにはない。
こんなにも自分が弱い存在であり、彼女の存在なしではまともに生活することも出来ないのだということを痛感した。
投げ出された手が闇の中に沈み、少しずつ存在をかき消していくように感じて呼吸が乱れていく。
それなのに私はこの場所から逃げ出すことも出来なければ、この闇という存在を認めることも出来ず、ただ全てを否定することしかできなかった。

乱れた呼吸を幾度となく繰り返した私の体は、闇の中に溶け込んで落ちていくようだった。
入り込んでしまえば二度と手にしたものを自分の元へ戻すことはできないのだとわかっているのに、私は今なにを考えているのか。
まるで闇の中に沈んでいくことを望んでいるのではないかと思ってしまう。

いくらないものを望んだって、全てはつくりだした空想の物でしかなかったのかもしれない。

あぁ、落ちていく。
そうはっきりと体が捉えた瞬間、見えていた私の体さえも輪郭を失って闇に飲み込まれてしまった。