■ プロフィール

Author: ねこ 
猫愛妻家。
持ち物全てを猫(黒猫だと尚いい)で染めようと密かに目論んでいる。

小咄は明るいモノよりも暗いモノを好みます。
一人称で意味不明な文をつらつら書く傾向が多々みられます。
でも心の奥深くではオールジャンルに対応できる人間になりたいと密かに思っております。

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甘い罪すら享受して


そんな要素はないんですがなんだか微妙にびー/えるチックです。
あと地味ーに流血表現入ってるので嫌悪感を感じる方はバックプリーズ。


本日のお題

    神様の悪戯10

「甘い罪すら享受して」

両手首を固定している銀の鎖が体をズラし動きをつける度に耳障りな音を生み出していく。
その上、体が少しでも妙な動きをみせると、ぴったりと手首に絡んだ輪の錆びた部分が生身に喰い込んで鈍い音を立てる。
音が耳に入り込んでくる度に、僕は歯が欠けてしまうのではないかと言う程に口上下を合わせて苦痛の色を消し去る努力をする。
瞬間、手首に食い込んだ輪を外す様体を動かすと簡単に元の形には戻るものの、複数箇所から生臭い液体が重力に従って流れ出して体を染めていく。
腕を伝って下ってきた液体が、決められた道筋を辿るよう横に並んでいた顔を伝い渡って首元まで垂れ込んでくる。
そうなると、薄かった生臭い匂いが徐々に濃さを増していき鼻の奥をじんわりと刺激する。
濃くなり体を侵食していくことを止めない生臭さに体がピクリと反応して、僕は体の芯から息を深く吐き出した。

この生臭さが鼻を刺激する度に、甘い香りへと変化して体の中を渦巻いていくような、奇妙な感覚が支配していく。
生臭い香りも、甘く変化する香りも、少しでも隙をみせれば意識を取り込まれてしまうようなものの様に感じてたまらなかった。
意識を持っていかれないようにと、苦痛に耐えつつも手首に輪を食い込ませる。
こうやって時間を取り次いで意識を保ちながら、唯一光の射している方向だけを見つめる。
状況的に、光がはっきりと見える筈もなく薄っすらとだけ入り込んでくる光が大きくなるのを、僕はいつも待っているのだ。

じわりと汗が噴出し、息が上がっていくのが感覚で分かる。
光から逸らしたくはない目を横へ移動させて強く目を瞑り、少し長く息を吸い込んでからその倍の時間をかけてゆっくりと吐き出す。
再び息を吸い込んだ僕は、不意に口に入り込んだ生臭さと甘さを絡めたような液体を喉の奥に通した。
しまったと思う前に体が反応する方が早く、今までの中で一番深く手首に輪を埋め込んだ気がする。


「───っぐ……」


僅かに残った理性が体の中の何かを止めるように、全体を繋ぐ銀色の鎖で多くの傷を刻み込んでいく。
今にも意識を手放してしまうのではないかという時に、ぱっと視界が暗くなり自身の意識が体の中に戻っていくのが分かった。
僕の肩に圧力がかかり、後ろの壁にふわりと支えられる感覚が伝わったかと思うと、低く厚い声が耳に届いた。


「──…遅くなってしまって、すまない…」


聞き覚えのある安心感を生ませる声に、僕は心の底から安堵した。
途切れ途切れの息を吐き出すと、先ほど付けた傷が思い出したように体を突き抜けるような痛みを発した。
うっと小さく声を漏らすと、僕から体を離した彼が頭から顔、首と伝うように手を走らせていく。
彼の優しく暖かい手が体の負傷部位に触れると、まるで元から傷はなかったかのように消えうせていく。
それでも若干の痛みは体に刻みこまれたままなのだが、それでも負傷部位が消えた分痛みは浄化された。


「…大丈夫か?」

「……っ大丈夫な訳、ねぇだろ馬鹿!!」


今あるありったけの力で彼に大声を浴びせると、体から力が抜けてしまい、不覚にも彼の胸に倒れこむような形になってしまった。
それを何も言わずに包み込むように自分の元へと引き寄せると、僕の体を優しく、それでも力強く抱き込んだ。
動かせない体を無理矢理に動かして顔を上げたが、僕を抱きしめるその手が微かに震えているのを感じて、再び顔を埋めた。


顔を埋めたところから、彼の心臓の音が耳を伝って流れ込んでくる。

それは普段聞く彼の心臓音よりも、遥かに早く鼓動している音だった。

僕はそれを耳にし、彼の手から伝わってくる震えを感じ、既に当たり前のように受け入れてしまっていたこの状況が彼にとってはどれ程深いものかを始めて感じた。
これが当たり前だと思い込み、もうその事実を変えることのできない僕は、ただ静かに、彼の腕の中で口を噤んでいることしかできなかった。
頬に伝った生臭く、甘い香りを下でそっと絡め取り下に乗せると、鼻で受けたものと同じ香りが喉を通った。

普通の人なら狂って吐き出してしまうであろう香りを、自らの中に受けおさめて自分のものにしてしまった僕は、彼と共に、生臭く甘い世界に溺れるしか先はないのだ。
自らを嘲笑うかのように出された吐息は、甘い罪の香りを混ぜ込んでいたようだった。













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